神戸経済ニュース

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自治体の企業並み情報開示に法整備急げ

 久元喜造神戸市長は24日付のブログで自治体の複式簿記に対して前向きな見方を示した(「複式簿記・発生主義」への移行の課題 http://hisamoto-kizo.com/blog/?p=1308 )。自治体の首長が複式簿記に理解を示しているのは評価するべきだが、遅きに失した感が否めない。その背景として、法的拘束力を持つ現在の自治体予算との兼ね合いで、住民や投資家など自治体への資金の出し手への報告を目的とする会計制度の整備が遅々として進んでいないことを指摘せざるを得ない。

 従来の法律に基づく自治体会計が住民や投資家の視線を、あまりにも意識していないことは明白だ。納税は義務なので財務諸表を見て納税先を決めることは不可能であるにしても、投資家が公募地方債を購入するに際し、たとえば民間企業などと財務内容を比較できない会計制度に基づいた財務諸表による投資判断を強要している状態といえる。そうした状態で、自治体は今後も資金調達が可能なのだろうか。

 財政難を背景に政府が自治体に税源を移譲し、交付税を縮小していく「地方分権」は今後も進む公算が大きい。自治体は自前で財源を用意するとなると、現在のような地方債ばかりでなく、民間企業のようにコミットメントラインを銀行と契約したり、現在は指定金融機関からの借入金に頼る短期資金を別の金融機関から調達したりといった、資金調達の多様化は欠かせない。その際に、ある程度は国際的な基準をベースにした財務諸表の提示を迫られる場面は多いだろう。

 自治体が上場企業並みの情報開示をすることで、より円滑な資金調達が可能になるばかりでなく、住民による自治体の事業の監視も容易になる。仮に粉飾などの不正経理があっても発覚が早まるだろう。

 神戸市は2014年に個人向け(住民参加型)と機関投資家向け(全国公募型)の合計で1100億円超の神戸市債(地方債)を発行し、このうち658億円を一般会計に組み入れる。658億円といえば、国から受け取る地方交付税の568億円を上回り、もはや欠かすことのできない財源だ。

 財政の健全運営は、短期的にはサービスの選択と集中によって住民同士の利害対立が発生する可能性は残る。しかし財政破綻によって権限を大きく制限される財政再建団体になるのを最も望まないのも住民のはず。「継続可能な財政」は中長期的には達成したい目標だ。そうした観点で、慶応大学の土居丈郎教授も指摘しているように投資家と住民に利害の一致する点は多い。

 久元市長による「法的拘束力を持つ予算や決算が現金主義を元にしているのが情報開示のネックだ」という指摘は、問題を半分程度しか述べていない。もはや発生主義・複式簿記をもとにして作成した財務諸表という、企業並み情報開示を有価証券の発行体である地方自治体に義務づけていないことこそが問題だ。総務省は少なくとも地方債(住民参加型を含む)を発行する自治体には、そうした会計報告を義務づけるべきだし、金融庁は地方債の発行体による情報開示が不十分であると投資家に警告すべきだろう。

 確かに神戸市は、R&Iから「AA」という非常に高い格付けを取得している。ただ、格付けがあくまでも参考情報であるというのを、投資家はリーマン・ショックのときに、イヤというほど経験した。

 もしかしたら自治省は自治体が情報開示を進めると、政府自らの情報開示が不十分であることが際立ってしまうのを懸念しているのかもしれない。仮にそうだとしても、よいではないか。政府よりも規模の小さい自治体会計のほうが、制度を浸透させるのに時間がかからないのは明白だからだ。神戸市債が日本国債よりも低い利回りで、市場で取引される日はこないのだろうか。

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