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(解説)「べっぴんさん」に過度な期待は禁物 ドラマへの関心、40年前より薄い

 3日午前にNHKの連続テレビ小説(ドラマ)「べっぴんさん」の放送が始まる。半年間と長期間にわたって放送される神戸が舞台のドラマとあって、神戸市はじめ地元財界では、観光客の増加に向けて期待が高まっている。過去にもNHKのドラマをきっかけに観光客が伸びた経験はあるが、今回は過度な期待を持たないほうが良いだろう。NHKの朝のドラマ自体に注目する人の数が減っているためだ。

■「べっぴんさん」関連行事など準備進む

 NHKによると「べっぴんさん」は月曜日から土曜日の朝8時に総合テレビで放送する15分番組だ。同日の午後0時45分から再放送する。主人公のモデルはファミリア(神戸市中央区)創業者の坂野惇子さん(故人)で、ドラマでは女優の芳根京子さん演じる「坂東すみれ」として登場する。神戸市を地盤に著名な子供服メーカーを築いた女性実業家の一代記になるとみられる。(写真はファミリア神戸元町本店=神戸市中央区

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 神戸市や神戸商工会議所(神商)は「『べっぴんさん』推進協議会」(事務局・神戸市経済観光局観光コンベンション課)を設置。べっぴんさんに関係したイベントや関連商品の開催を促している。2日には放送開始の3日午前8時まで24時間、ジャズを演奏し続けるイベントなどが開かれた。このほかファッションに関する講演会や、神戸の物産を開発する「別品博覧会」の開催も決まっている。

 みなと銀行は11〜17日(15・16日は除く)に本店営業部(神戸市中央区)で「パネル展」を開催。「<みなと>神戸の『べっぴん』プレゼントキャンペーン」として50万円以上の投資信託購入者向けに抽選でファミリア製品が当たる企画を展開する。8月には神商が主催して「べっぴんさん」のロゴ・商標をを商品に使用する際のルールや手続きに関する説明会が開かれており、関連商品の準備も進んでいるとみられる。

 確かに神戸市への観光客が増えたのはNHKの同じ連続テレビ小説がきっかけだったから、期待が高まりやすいのは理解できる。1977〜78年に放送された「風見鶏」をきっかけに「異人館ブーム」が起き、古い洋館が観光資源として脚光を浴びた。京都や大阪に比べて都市としての歴史が浅い神戸の観光資源を異人館が補った形だ。いまでは神戸市がドラマ「風見鶏」の放送開始日である10月3日を「神戸観光の日」に定めた。

 ただ、神戸が舞台のNHK連続テレビ小説は「風見鶏」以来ではない。阪神淡路大震災から10年に当たる2005年の1月17日が放送期間にかかる形で、04年秋から05年冬にかけて放送した「わかば」は新たな観光客を多く呼び込むきっかけにならなかった。神戸市が発表した観光客入込数は04年こそ前の年に比べて5%増の2812万人と、ポートピア博覧会を開催した1981年以来の高水準を記録したが、翌05年には早速減少と、長続きしなかった。

■最近の視聴率、「風見鶏」より大幅に低く

 理由の1つには、NHKの連続テレビ小説に対する関心の低下が挙げられそうだ。調査会社のビデオリサーチが調べた「風見鶏」の視聴率は期間平均(初回〜最終回)で38.3%だった。前後の期間に放送した作品と比較すると飛び抜けて高いとはいえず、現在よりも連続テレビ小説全般について関心は高かっただろう。一方、「わかば」は期間平均で17.0%、最も見られた回の視聴率でも19.9%にとどまった。

 さらに異人館に代わる新たな観光資源を見いだせていないことも理由といえそうだ。山陽新幹線新神戸駅の待合フロアにある時計は、いまだに風見鶏がデザインされている(写真下)。神戸が異人館のある港町であることに変わりはないが、「風見鶏」の当時から変わらない入館料を徴収して見せるだけという、旧態依然としたスタイルで観光客は昔と同じように満足するのかどうか。たとえば異人館のオーナーが趣味で集めた骨董品の展示は、多くの観光客にとって興味を引くのか疑問だ。

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 このところNHK連続テレビ小説の視聴率はやや上昇しているとはいえ、期間平均で20%を上回れば好成績だ。「べっぴんさん」をきっかけに、ファミリアのデザインとして知られるギンガムチェック柄の文房具が売れるといった多少の恩恵はありそうだ。ただ、観光客数を底上げするような、大きな効果はドラマの放送だけでは期待しにくいのが現状だ。

 経済の活性化に着目するなら、ファミリアという早くから富裕層向けビジネスを成功させたユニークな企業の歴史を振り返ることが、今後の神戸経済の将来を考えるうえで役に立つかもしれない。東洋のマンチェスターと呼ばれた工業都市の大阪とは違ったものづくりの歴史を再発見することにもつながるはず。

 そんな神戸の経済史を象徴する産業遺産として、旧居留地の旧スタンダードチャータード銀行神戸支店が観光資源として十分に機能している例もある。そのスタンダードチャータード銀行香港上海銀行と並んで戦前は世界3大為替銀行とされた旧横浜正金銀行の神戸支店だった建物は、いまの神戸市立博物館だ。産業遺産を上手く保存すれば商業施設や集客施設になるし、CSR(企業の社会的責任)を果たすことにもなる。

 観光資源という観点でみても神戸市内では歴史的建築物の保存や活用が不十分だ。市長の久元氏も「戦災を受けて、また震災を受けて、残っている文化遺産というのはほかの都市に比べてそんなに多くはありませんから、できるだけ保存していくことが望まれる」と認める。そうした中で1900年完成の歴史的建築物である旧三菱銀行神戸支店をタワーマンション建設のために売却したのは当のファミリア自身だったというのが、いかにも神戸経済の疲弊を映しているようで実にさびしい。(神戸経済ニュース)

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